Kamo no Chōmei: Hōjōki

鴨長明、方丈記
作家: 鴨長明(かものちょうめい) (1155-1216) 
1155年: 賀茂(かも)神社の神事(しんじ)統率(とうそつ)する鴨長継(ながつぐ)の次男として生まれる  
1204年: 出家(しゅっけ)する

1208年: 方丈(ほうじょう)(いおり)を結ぶ
(方丈は、1丈 3 m 四方の面積(めんせき)())
1212年: 「方丈記」ができる
1216年: 鴨長明が死去(しきょ)

作品:  鎌倉時代の文学作品。日本中世文学の代表的な随筆(ずいひつ)とされ、約100年後に執筆(しっぴつ)された 吉田(よしだ)兼好(けんこう)の『徒然草(つれづれぐさ)』、(せい)少納言(しょうなごん)の『(まくらの)草子(ぞうし)』 とあわせて日本三大随筆とも呼ばれる。鴨長明が晩年、日野(ひの)山に方丈(一丈四方)の庵を結んだことから「方丈記」と名づけた。漢字と仮名の混ざった和漢(わかん)混淆文(こんこうぶん)で書かれたものとしては、最初の(すぐ)れた文芸作品である。

【ゆく河の流れ】
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。(よど)みに浮ぶうたかたは、かつ()え、かつ結びて、久しくとどまりたる(ためし)なし。世の中にある人と、(すみか)とまたかくのごとし。
 
(たま)()きの都のうちに、(むね)を並べ、(いらか)を争へる、高き、 いやしき、人の住ひは、()々を()()きせぬものなれど、これをまことかと(たず)ねれば、昔ありし家は(まれ)なり。(ある)去年(こぞ)()けて、今年作れり。あるは大家(おほいへ)亡びて小家(こいへ)となる。住む人もこれに同じ。 所も変らず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が(うち)に、わづかにひとりふたりなり。(あした)に死に、(ゆふべ)に生るるならひ、た水の(あわ)にぞ似たりける。
 
知らず、生れ死ぬる人、何方(いずかた)より来たりて、何方へか去る。また知らず、(かり)宿(やど)り、()が為にか心を(なや)まし、何によりてか目を喜ばしむる。その(あるじ)と栖と、無常を争ふさま、いは朝顔(あさがほ)の露に異ならず。或は露落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。或は花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕を待つ事なし。

現代語訳:
  ゆく川の流れは絶えることがなく、しかもその水は前に見たもとの水ではない。淀みに浮かぶ泡は、一方で消えたかと思うと一方で浮かび出て、いつまでも同じ形でいる例はない。 世の中に存在する人と、その住みかもまた同じだ。 
 
玉を敷きつめたような都の中で、棟を並べ、 屋根の高さを(きそ)っている、身分(みぶん)の高い人や(ひく)い人の住まいは、時代を経てもなくならないもののようだが、これはほんとうかと調(しら)べてみると、(むかし)からあったままの家はむしろ(まれ)だ。あるものは去年焼けて今年作ったものだ。またあるものは大きな家が(おとろ)えて、小さな家となっている。住む人もこれと同じだ。 場所も変らず住む人も多いけれど、昔会った人は、二、三十人の中にわずかに一人か二人だ。朝にどこかで誰かが死ぬかと思えば、夕方にはどこかで誰かが生まれるというこの世のすがたは、ちょうど水の泡とよく似ている。
 
私には分からない、いったい生まれ、 死ぬ人は、どこからこの世に来て、 どこへ()っていくのか。 また分からないのが、一時の(かり)の宿に過ぎない家を、誰のために苦労して造り、何のために目先(めさき)を楽しませて(かざ)るのか。その主人と住まいとが、無常の運命を争っているかのように(ほろ)びていくさまは、いわば朝顔の花と、その花につく露との関係と変わらない。あるときは露が落ちてしまっても花は()き残る。 残るといっても朝日のころには枯れてしまう。 あるときは花が先にしぼんで露はなお消えないでいる。消えないといっても夕方を待つことはない。 

神事
しんじ
Shintō-Ritual
統率する
とうそつ
leiten, führen
出家
しゅっけ
ins Kloster gehen
いおり
Klause, Einsiedelei, Hütte
結ぶ
むすぶ
binden, bauen
面積
めんせき
Fläche
中世
ちゅうせい
Mittelalter
代表的
だいひょうてき
typisch
随筆
ずいひつ
Essay
執筆する
しっぴつ
schreiben, verfassen
混ざる 
まざる
vermischt sein, sich vermischen
文芸作品
ぶんげいさくひん
literarisches Werk
かわ
Fluß
絶えず
たえず
ununterbrochen
淀む
よどむ
sich stauen, stocken
浮ぶ
うかぶ
schwimmen, schweben, treiben
うたかた (泡沫)

Schaum, Blase
かつ (且つ)

außerdem, ferner, und
消える
きえる
erlöschen, verschwinden
とどまる

bleiben
すみか
Behausung
斯くの如し
かくのごとし
ähnlich sein
たま
Edelstein, Jade
むね
Dachfirst, Gebäude
いらか
Dachziegel
争う
あらそう
streiten, wetteifern
卑しい、賎しい
いやしい
niedrig, gemain, unedel
尋ねる
たずねる
suchen, forschen, sich erkundigen
まれ
selten
焼ける
やける
abbrennen, zerstört werden
亡びる、滅びる
ほろびる
vernichtet werden, untergehen
ならひ

Gewohnheit
あわ
Schaum, Blase
仮の
かり
vorläufig
悩ます
なやます
quälen, plagen
無常
むじょう
Vergänglichkeit, Unbeständigkeit
朝顔
あさがお
Trichterwinde
つゆ
Tau
枯れる
かれる
vertrocknen, verdorren
萎む、凋む
しぼむ
verwelken
なお (なほ)

immer noch
敷きつめる
しきつめる
ganz belegen
競う
きそう
wetteifern, konkurrieren
身分
みぶん
Stand, Rang
むしろ

vielmehr, lieber
衰える
おとろえる
schwächer werden, verfallen
わずかに

wenig
いったい

wohl, denn; eigentlich, im Grunde
目先
めさき
Blickfeld
運命
うんめい
Schicksal
いわば

sozusagen, mit einem Wort